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2006年12月24日以来やってきました。 Recto Berso(レクト・べルソ)とそのスタッフの音楽にかかわる情報を載せています。
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 録音中、というと、マイクを立てて、というイメージがあるかもしれませんが、いまは、ひたすらパーソナルコンピューターに向かう日々です。ひとくちに録音(レコーディング)といっても、厳密には、おおまかに、文字どおりの録音(音声記録)と編集の段階にわけることができます。編集の段階では、たくさん録られた音のどれを使うか、あるいはどのように加工するか、あるいはしないか、を検討、実行します。加工の過程で新たな「音」を生成し、記録することもあるという意味では、ひろい意味では、たしかに「編集」もまた、録音の過程に含むことができます。レコードが一つの料理だとするならば、大根とかにんにくなどの材料を揃えるのが録音の段階、材料を加工する調理の段階が編集と考えればよい、とおもいます。今回のレコードづくりは、畑用の土地を見定めて買うところからはじめました。土をならして、種をまき、大根をかりとり、煮るところまで進んできています。こう考えたら、けっこうたいへんな道のりかもしれません。28dfc3a2.jpeg
 つまり、いま、記録の段階はほぼ終えて、編集の段階にいます。今回のレコードに入れる曲では、ほとんどの歌パートに、ダブルトラック(トラッキング)という方法を適用しています。ダブルトラックとは、要は、同じ音程の、同じ音長の同じ音色の音(たとえば同じ歌手の声)を二つ(以上)同時に鳴らす方法のことです。この場合の「同じ」は厳密には、「ほぼ同じ」であって、まったく同じではありません。いまは音のディジタル複製ができ、ディジタル複製をした音は原理上、同じ音です。同じ音を二つ鳴らせても、個別の音よりただ大音量の一つの音が鳴るだけで、つまりは、「二つの音」になりません。ですから、ダブルトラックという方法は、「あらかじめ差異を含んだ同一の音」を複数鳴らす、というコンセプトに基づいています。
 ダブルトラックでなにができるのでしょうか。ダブルトラックの処理を受けた歌パートは、きいたときに、たいていの場合、一つの音よりもよりふくよかな一つの音、となります。二つの異なる、しかしきわめて似た音がたがいに干渉しあいながら響きあうことで、ごく短いエコーにも似た効果が生まれます。しかし、エコーとはちがいます。ダブルトラックの二つの音は原音と残響音という固定した役割をもちません。どちらもがたがいに対して原音であり残響音であるというアンビヴァレントな在りかたをします。こうした、一つの音でありながら二つの音であるダブルトラックを使うにさいしては、一つの音と二つの音のあいだのどこに自分の理想のダブルトラックを位置づけるか、そのバランスのとりかたがポイントとなります。
 二つの音の差異が激しい場合は(たとえば二つの音のあいだで音程がひどくずれている場合などは)、ふくよかな一つの音ではなく、たんなる二つの音(ツートラックス)にきこえます。こうなっては、ダブルトラックの醍醐味はありません。ぎゃくに、かぎりなく一つの音に近づける方法、アーティフィシャルダブルトラック(トラッキング)という特殊な方法もあります。これは、音声記録の段階では同一の音から、編集段階で異なる二つの音をつくることです。つまり、アナログ複製によってダブルトラックをつくります。ディジタルとはちがって、アナログで複製した場合は、複製であっても、複製媒体の不純物が混ざるため、完全に同一のものができません。この不完全な複製性能を(ある意味では)利用して、一つの、しかし二つの音を鳴らすことができます。ただしこの場合は、上手に不純物が混ざるしかたで複製しなければ、たんにちょっと大音量の一つの音にきこえてしまいます。Sandwich.jpg
 今回のレコードでは、音声記録段階で異なる音に基づくダブルトラックをつくっています。この方法でいく場合は、経験則でいえば、はじめから(ナチュラルに)に異なる音を用いるので、あとはナチュラルなレヴェルでの差異を小さくする、つまり歌手の側のスタンスで表現すれば、できるかぎり同じように歌った音を用いるときのダブルトラックの響きが理想です。これは歌手の側にしてみれば、ある種の制約にもなります。たとえばビートルズ初期のレノンのダブルトラックの歌パートには、ばらばらな感じ、つまり二つの音にきこえてしまうという傾向があります。他方で、マッカートニィのダブルトラックはよりまとまっています。これは裏から言えば、レノンの歌のスタイルに、マッカートニィに比べて、よりソウルフルな要素がある、ということです。ソウルフルとは、表現が豊か、というくらいの意味で言っておりますが、分析的に言えば、声のトーンのめまぐるしい変化や、シャウトやかすれといった歌手自身が制御しにくい効果音といってもよい技術を多用する、ということです。とくにレノンの場合は、そうした技術の効果をある程度偶然にまかせているので、そもそも同じように歌おうという意識も希薄です。こうした、ある種の一回性、あるいは、歌うたびごとのばらつきを醍醐味とする歌の表現上の要素は、いわばアーティフィシャルダブルトラックにになるべく近いナチュラルダブルトラックを志向する場合、ダブルトラックには向かない、と言えるかもしれません。もちろん完全にコントロールされたソウフルネスがあれば、問題はないでしょう。しかし、そうした表現力を得ることは簡単ではありません。とすれば、ダブルトラック用の歌を歌うときは、ソウルフルにではない風に歌う、ということが条件になってきます。これがダブルトラックをつくる場合の、歌手にとっての制約です。
 しかしこうした「制約」は、われわれにとってネガティヴではありません。歌ううえでの制約を含むようなダブルトラックを好んで使うこと自体、そうしたダブルトラックに即した音楽を好んでいるからです。すなわち、歌う側の制約は同じように歌う、ということですから、そうした制約をよしとするということは、ひるがえして言えば、旋律を固定することをよしとする、ということです。ダブルトラックは、元々は、ビートルズらの時代に、一発録りでレコードをつくっていたころ、「旋律である」歌パートを埋もれさせないために使われた技術です。「へたな」歌をカヴァーするという効用もありました。しかしこんにち、歌手の表現力、録音技術の向上により、「必要性」はとぼしくなりました。それをいま、必要とするならば、それは、音楽上のスタンスの選択を意味します。その日の気分にまかせた演奏よりも、練りに練られた旋律の重視。旋律はもうつくりつくされた。旋律で個性は表現できない、という風なあきらめの裏返しの達観の下、その日の自分の気分にシンクロすることを客に求める音楽家、演奏家が散見されます。また客の側もやぶさかではない、という現状。旋律を食う「表現力」ならどぶに捨てるべきです。一見いんちきなダブルトラックという方法とともに、まじめな音楽を提供したい、というのがRecto Bersoの願いです。
 だから、もうすこし、完成まで、しびれをきらしながら、お待ちください。trippen4.JPG(春木)






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無題
よかった!生きていた!ひとまず安心。

ともあれ、たしかにダブルトラックなんて今時するやつもいないだろうなあ。時間かかるし。
DANELECTRO 2009/10/26(Mon)12:37:12 編集
無題
追伸
しかしながら、センスある画像のチョイスですね。私もダブルトラックをしたことがありましたが「リバーブかけるんじゃあかんの?」みたいなことがありました。
ビートルズ好き二人(俺含む)がこれはあれこれでリバーブとは違うのだよ。みたいな説明をした後にダブルトラックを実現しました。正直ただダブルトラックがしたかっただけなのですが、なんというか音の厚みが違いますな、リバーブとは。正直他の人にはきっとわからないことなんだろけど、こうやって一つの作品を作っていくことが楽しくもありました。
たしかに簡単にエフェクトを作り出すことができる昨今の作曲環境ではスタンス以上の意味がないかもしれないがこうやって作品に愛情を注いでやることがいい作品を作る根本の力なのだと思います。
DANELECTRO 2009/10/26(Mon)23:07:56 編集
いつも、ありがとうございます。
 ダネレクトロさま、いつもコメントいただき、おそれいります。わたしはわたしの作品が好きです。作品になりたいくらい好きです。愛情を注ぎすぎないよう気をつけて注ぎます。
 一枚目の写真は、寝屋川市にお住まいのアレック氏が、「録音がんばってください」と、たびたびお贈りくださる氏自作の無農薬野菜です。いつもいろいろな料理にアレンジさせていただき、助かっています。無農薬ならそれでよいのか、と言われれば疑問ですが、無農薬野菜と有農薬野菜がともに無料ならば、あえて有農薬が好むというひとには会ったことがありません。
 二枚目はレモンハーブのソシスを使ったカスクゥトです。丹精をこめました。
 三枚目はただの、人間の足です。
 これからもよろしくお願いします。
春木 2009/10/27(Tue)02:22:45 編集
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プロフィール
HN:
Recto Berso
年齢:
17
性別:
女性
誕生日:
2007/01/13
職業:
音楽家
趣味:
作曲、川柳
自己紹介:
Recto Berso(レクト・ベルソ)

 西中、春木、ふたりの自作自演歌手から成るロック・アンド・ロール・グループ。グループ名は、ラテン語のRecto Verso(おもて、うら)に由来。ひとをはっとさせる、かつ親しみやすいメロディをつむぎ、地域、時代にとら われず広く長く世に歌い継がれる歌をつくりだすことがヴィジョン。英語、フランス語、日本語でつづったオリジナルレパートリーは30曲、ストック曲は 120を越える。東京を中心に生演奏会を展開。楽器、録音器材にこだわりぬいた100%手づくりの音源もききもの。現在、岡田徹(ムーンライダーズ)のプ ロデュースのもと1stミニアルバム(2012年8月発売予定)を制作中。

 使用録音マシン:Telefunken V72a 1960年代製、Telefunken V76 1960年代製、Telefunken U83 1950年代製、Microtech Gefell UM92S 1990年代製、Telefunken D19 BKHI 1960年代製、AKG B200 1960年代製、AKG D19CRCA 77DX 1940年代製、Neumann W444sta 1970年代製、Eckmiller W85

ヒストリィ:
2006年10月 西中と春木が出会う。
2007年1月 「Recto Berso」結成、および初めての生演奏会をする。
2007年3月 インターネットラジオ「噂のギグ」に出演する。
2007年6月 インターネットラジオ「噂のギグ」に出演する。
2007年11月 吉川忠英氏らとセッションする。屋敷豪太氏も同席。勉強する。
2007年12月 EMI主催オーディション 第1回Awake Sounds Audition 準優勝をおさめる。
2009年2月 ビーイング音楽振興会主催 2009BADオーディション最終選考通過
2009年3月 アルバム完成にむけて、録音をいっしょうけんめいにする。
2010年7月 アルバムのプリマスター版が完成する。
2010年10月 音密団により発掘、育成される。
2011年7月 BELAKISSのメンバー全員に、プリマスター盤を手渡す。
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