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これもよくあるたぐいの話ですが、JR女性専用車両でのことです。
ごぞんじでないかたもおられるかもしれませんが、鉄道業を営んでいるJRでは、自社の一部の路線の一部の車両に一定の時間、女だけしか乗せないというキャンペインをはっています。このいくぶんか奇抜に見えるかもしれないアイディアは、一部の女から好評を得て、一部の男から不評を得て、その他大多数の女男からはとくに関心すらも得ていません。
その日ちょうど女性専用車両を含んだJRの電車に乗ることになったわたしは、当然ながら、というわけでもありませんが、女性専用に乗りこみました。女性専用車両は、どういうわけか、他の車両に比べて、空いていることが多いからです。ただし、車内の特有の臭気は鼻をつきます。
乗りこんでしばらく、わたしが車内広告を見つめるふりをしながらそのじつぼうっとしていると、やおら、おばはん風のひとが、つかつかとこちらへやってきます。わたしの前に立ちはだかるや、勝ち気な態度で、「ここ、女性専用車両なんですけど!」ときました。
これは、きました。やられました。一本とられました。まったくです。そこは女性専用車両以外のなにものでもありません。しかしそんなしごくあたり前のことを言いに、このひとはわたしの前までやってきたのでしょうか。ちがうとすれば、なんということか、ひじょうに残念ながらと言うべきか、かなしむべきことにと言うべきか、このひとは、わたしに例のごとく文句を言いにきたのでしょうか。どうやら、そうらしいのです。こともあろうに、わたしを男だとみなし、その女の聖域からつまみ出そう、と言うのです。
まあ、よいでしょう。一度や二度ではありません。それまでもわたしは男とみなされいくらかの不当なあつかいを受けてきたのは事実です。そのときも、わたしの言うべきせりふは一つしかありませんでした。
「わたし、女なんですけど。」
「!!」「...あ...す、すみません。」そのひとの顔にはもはや勝ち気はなく、かわりに、もうしわけなさと、反面、ぬぐいきれない猜疑のまなざしが浮かびあがっていました。
また言ってしまったこのせりふ。わたしはこのせりふを吐くたびに、逆説的にも、自ら、自らの女をふみにじってしまっているのです。しかし、わたしはそんな自分の境遇を呪うわけでもありませんし、わたしにこのせりふを吐かせたこのおばはん風のひとを恨んでいるわけでもありません。
このひとのおかしさは、シンプルな、そして、最もありふれた構造をしています。一つの礼儀を重視するあまり、他の礼儀を軽視してしまっているという構造です。すなわち、男なのに女性専用車両に乗るという、礼儀(というよりこの場合は規則か、規範といってもよいですが)に悖ることを、男である(とみなされた)わたしがおこなっている場合に、それを注意するのはよいのですが、そのさいに、他人の性別をすくなくとも当人に確認することなく決めつけてしまう、というこれまた礼儀に悖った行為をしてしまったのです。
こうしたおかしな行為は、はこうやって第三者の事例でもって示されると、いかにも限られたばかなやつだけがしそう、と思われるかもしれませんが、多くのひとがやっています。
以前に千原ジュニアという喜劇作家・喜劇俳優が、松本人志という同じく喜劇作家・喜劇俳優のことを語るエピソードのなかにも同様の行為が見うけられました。よく知られたものでしょうが、こんな話です。
千原、松本、それから木村というこれも喜劇作家・喜劇俳優が、ある旅館に泊まったときの話です。その旅館では、備えつけの浴衣を着て食堂で食事をすることはできない、と言うのです。浴衣を着て食堂で食事をしたい千原たちは旅館のスタッフや責任者ともめるのですが、強面の木村が、「そんなあほなことあるかい!」とすごんでも、らちがあきません。「私服でお食事なさってください」の一点張り。そこで、松本が、すっと、「おれの私服、浴衣やったらどうすんねん?」と言うと、旅館側はやむなく「...浴衣でどうぞ。」と折れた、というエピソードです。
千原は、どなりちらす木村と冷静な松本の対比をうまく描いて笑いをとるわけですが、木村と松本のあいだには、千原が話の構成上で表現するキャラクターのコントラストと同時に、いわば思考の深度のコントラストがあります。「私服でしか食事をしてはならない」という規則の妥当性ばかりを突く木村に対して、松本は、私服しかだめという規則は認めたうえで、それでも、浴衣で食事をすることが可能となる論法でうって出ます。
ある意味で松本にとって、あるいは、このエピソードにおいて、浴衣で食事ができるかどうかはどうでもよいのです。旅館のスタッフに、反省させることができている、という点が大事です。旅館のスタッフははなから、客の浴衣は私服ではない、と決めてかかっているのです。ゆえに私服=浴衣であるようなひとがいる可能性が想定できていない。この点が失敗です。女性専用車両で、わたしに文句をつけてきたひとが、わたしが女である可能性を想定できていないのと同じです。ところが私服が浴衣であるひとはあり「うる」し、男にしか見えないような女もあり「え」ます。じっさいに松本の私服が浴衣であることはなかったのでしょうが、そんな「現実」のことは問題ではないのです。私服が浴衣でもありうるという「可能」のレヴェルでものごとを考えることができている、この点で松本のスタンスはあざやかで、そのコメントは痛快です。
あるひとが女性専用車両に乗りたければ、そのひとが女であればよい、あるいは、女になればよいのです。宿屋の浴衣を着たければ、それが私服であればよい、あるいは、それを私服にすればよいのです。「女」にしても、「私服」にしても、本来その外延(概念の適用範囲)は恣意的なのです。
こうしてその日もわたしは、女性専用車両を出て、JR大阪駅の雑踏に降り立ちました。
(春木)
The Best Water In The World
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西中、春木、ふたりの自作自演歌手から成るロック・アンド・ロール・グループ。グループ名は、ラテン語のRecto Verso(おもて、うら)に由来。ひとをはっとさせる、かつ親しみやすいメロディをつむぎ、地域、時代にとら われず広く長く世に歌い継がれる歌をつくりだすことがヴィジョン。英語、フランス語、日本語でつづったオリジナルレパートリーは30曲、ストック曲は 120を越える。東京を中心に生演奏会を展開。楽器、録音器材にこだわりぬいた100%手づくりの音源もききもの。現在、岡田徹(ムーンライダーズ)のプ ロデュースのもと1stミニアルバム(2012年8月発売予定)を制作中。
使用録音マシン:Telefunken V72a 1960年代製、Telefunken V76 1960年代製、Telefunken U83 1950年代製、Microtech Gefell UM92S 1990年代製、Telefunken D19 BKHI 1960年代製、AKG B200 1960年代製、AKG D19CRCA 77DX 1940年代製、Neumann W444sta 1970年代製、Eckmiller W85
ヒストリィ:
2006年10月 西中と春木が出会う。
2007年1月 「Recto Berso」結成、および初めての生演奏会をする。
2007年3月 インターネットラジオ「噂のギグ」に出演する。
2007年6月 インターネットラジオ「噂のギグ」に出演する。
2007年11月 吉川忠英氏らとセッションする。屋敷豪太氏も同席。勉強する。
2007年12月 EMI主催オーディション 第1回Awake Sounds Audition 準優勝をおさめる。
2009年2月 ビーイング音楽振興会主催 2009BADオーディション最終選考通過
2009年3月 アルバム完成にむけて、録音をいっしょうけんめいにする。
2010年7月 アルバムのプリマスター版が完成する。
2010年10月 音密団により発掘、育成される。
2011年7月 BELAKISSのメンバー全員に、プリマスター盤を手渡す。